身の振り方を考える(PSO振り返り)

 本来僕は海外の大会には興味を持たない、JEBスピナーにありがちな態度をとっていたので、PSOが2018年からやっていたことも覚えていなかったし、今年も対岸の火事だと思っていた。しかしよくよく公式のツイートを見てみれば“Unmod”なる文字列がある。その文字列が目に入った瞬間、遠くの祭囃子が一気に僕の領域まで急接近してきた。

 年末はJEBもイベントが多くなるのでスケジュール上、それでも参加には及び腰だったわけだが、下のツイートがついには決め手となった。

 端的に言ってこの予想は正しい。未改造ペンでできて改造ペンでできない技というのはなく、突き詰めてみればスタイルとして両者を分かつのは、それぞれで見栄えのよい技が違うことだけだと言える。ゆえにその差異をさえ気にかければある一定以上のクオリティのFSを作ることは可能であって、実際その例としてEverchixさん(上)、Itezaさん(下)を挙げられるだろう。

youtu.be

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 ツイート主のTaliskerさんの指摘通り、彼らが未改造回しの研究を本格的にやり始めたら、ものの数ヶ月で僕を越えてゆくものだと想像に難くない。

 突如としてobjeというUnmodスピナーの立場が揺らぐ。僕は無駄に十年もDr.gripを回し続けているからだ。果たして僕の座っている椅子は、十年という歳月の長さとスタイルの特殊性に頼りきった、伝統主義的で権威主義的な、脆い椅子ではなかろうか。

 ペン回しの発展においてスピナーの立場など瑣末事だ。しかし、未改造ペンで素晴らしいFSを生むなら、ついでに僕を正面から潰して欲しい。その思いから、ある種ヒール役を買って出るつもりで参加した次第である。

 

 結果は僕の優勝に終わり、aonekoさんの準優勝に終わった。予選から既に僕とaonekoさんとの優勝争いであることがほぼ決定づけられた印象であった。僕の意気込みには単純なミスがあった。それはUnmod部門が今年から新設された部門であるゆえに、未改造回し専門ではないスピナーたちが短い準備期間のなかで挑まなければならなかったという事だ。しかし拍子抜けな結果だったかといえば決してそうではない。KoViさんの意気込み溢れる奮闘を見ることができたからだ。

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 彼のFSにはEaseさん的な文脈が随所にみられ、加えて自分のアドバンテージも組み込もうと苦心した形跡がある。この短期間でかなり研究したことが容易に窺える。僕の面目が潰れることはなかったが、真っ向から挑まれていると唯一感じたFSであった。

 それ以外でも自らのポテンシャルで勝負に出たと思われる良いFSもあった。難易度重視のtetoraさんやGravy、miくんやEnceさん、coffeluckyやPadraceなどのFSは上述の点で良かった。またDrakeSは海外ではほぼ唯一未改造ペン回しを継続している人であるため、彼にはこれからも頑張ってほしい。

 

 では僕がヒールの役を全うできたか。達成率でいえば65%ほどだろうと、執筆時点では思っている。簡素で、未改造ペンでも改造ペンでも比較的見映えの保証されたパス+ウィンドミル系統の技に終始したために、Easeさんやaonekoさんのような見応えにはいまひとつ欠けていたのではないか。未改造ペンを回し続けてきた者としてあるべき洗練度に達している自信はあるが、密度や構成の面白みという点では不満が残る結果となった。そして今の自分の発揮できるポテンシャルとして、実はこれがほぼ限界に近いことにもまた、歯痒さを感じてやまない。

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 Unmod以外は見ていない動画も多いが、StandupのPadrace、Haroさん、Akky、XpXhのRPD、Criswea!!、AestheticsのAiMoさん、Nanafushiさんが印象に残った。特にXpXhの上位二名の動画を見ていて、やはり今後未知なる表現の開拓は、改造された、双頭の、長く回しやすいペンによってされるものであると再確認した。そしてその点で、キャリアの途中でUnmodに本格的に参入する人はこれからもいないだろう。時間は有限だ。だとすれば、ペンスピナーたちの“余暇”として細々と生きつつ、Easeさんやaonekoさん、僕などと同じ轍を踏んでくれる次世代を見つけることが、Unmodスタイルが食いつなぐ唯一の道ではないか。僕は方々で「Dr.gripスタイルの延命をするためにいまもDr.gripを回している」と言っているが、今後の身の振り方としてはおおむね適切なものであろう。そしてそれはおそらく単なる現状維持で達成できるものではない。そのスタイルをずっと続けている者なしにして、スタイルが生き残る術はない。オールドスクールVPスタイルの状況を見れば、そのことは明白だ。

 Taliskerさんの予測の答え合わせには、かなりの期間を要するものだろう。しかしPSOのUnmod部門が新設されたことで、その期間はかなり縮んでくれたと思う。スピナーたちが“余暇”に専念する機会が生まれたことは、この上ない幸いだ。だから僕はこれからも“余暇”の番人として、伝統主義者的に、回せるだけ回してゆくつもりだ。もし次回もUnmod部門があるなら、そして僕が幸運なことに二年後もペン回し活動を続けられているならば、そのときはぜひ僕と“余暇”を楽しんでいただき、時には僕を越えていただきたい。

 

 素晴らしい大会をありがとうございました。

 

2022/12/15 1:10 KoViさんの動画を追加