2022年振り返り

  ハルシオンさんの記事に触発されたので、自分も書いてみる。とっくに年は明けてしまったが。……

 


1〜3月

 この辺りはまだあまりペン回しをしていなかった。前年に家族関係の破綻が完全な表面化を迎え、その影響でヒステリックになった母親により自分の部屋をめちゃくちゃに荒らされたので、家を出て一人暮らしを始めた。

 


4〜6月

 もう数年来ほぼペン回しをしていなかったが、一人暮らしを始めてから急に、FSを組むようになった。寝るために買ったクッションの色合いがペン回しの撮影の背景としてちょうど良いことに気づき、いくつか短いFSを撮影したのち、5月あたりにfukrouさんのCV『IN THE DUSK』に動画を提出した。そのときの手癖技を全て入れたが、そこそこ良い動画が撮れたと思う。

 実家の縁はなんやかんや切れなかった。完全に絶ってしまえば次の破綻が程なくやって来、その後処理を僕一人でやらねばならなくなることが容易に予想され、加えて他人の絡む問題もあったためだ。母親の烈しいヒステリーは6月まで続き、その間にだいぶ性格が歪んだ。

 


7〜9月

 母親のヒステリーはこの頃から影を潜め、今に至っている。今でもいつ再発しないかと戦々恐々としている。

 ペン回しではこの辺りから活動が活発化する。CVに複数出演し、全日本ペン回し選手権大会で、決勝には漏れるも13位入賞する。

 8月あたりまでテーブル一つさえない生活を送っていた。見かねた高校時代の友人数人(全員県外で働いている)が盆休みに集結し、家具買い出しの手伝いをしてくれた。僕の生活の有り様を実際に見た彼らから「高さが足りない」「二次元にいる」などと言われた。友人たちよありがとう。

 ペン回し選手権の決勝が行われる裏で知人のドラマーのスティックを回すなどした。

 PSOとJapEnの告知があり、スケジュール丸かぶりであったが二兎を追うことにした。ひとまずJapEnの一次締め切りに動画を提出した。

 


 三つのCVに出演した。彼の二作目を含め、Screwさんの編集にはとんち的な豊かな発想力がある。

SMR Splash』(Nattowさん作)

IN THE DUSK』(fukrouさん作)

At Home』(Screwさん作)

 


10〜12月

 新型コロナに感染し、初めて発症した。昨年後半から今年前半にかけてゴタゴタ続きでワクチンを一回も打てていなかったので一週間丸々苦しんだ。40度の熱が三日続き、これまでにない烈しい喉の痛みのために食事はとれず、重い倦怠感で身体を起こしているのもやっとだった。PSOの締切前に発症していなくてよかった。

 PSOラウンド1を撮っていたところへJapEnのFSについての講評が届いた。Easeさんとのスタイル的な差別化を図るべしとの評があり、このとき回すペンを変えた。十年近く回してきたDr.gripから、新品の、重心の位置が全く違うDr.gripに変えるのはだいぶ勇気の要る選択だったが、これが功を奏したと思っている。

 PSOとJapEn撮影の同時並行は正直しんどかった。やりたいことと実際にできることとの塩梅がうまく調整できておらず、一本の動画を撮るのに数週間かかってしまうという体たらくだ。2023年はもうちょっとなんとかしたいと思っている。

 スマホ編集ソフトをNogutaさんに教えてもらい、拾いを作った。動画蒐集の能力があまりにも低すぎるため、次作では動画を募ることにした。

 JEBfesに行った。前日にはディズニーに行った。あまりの寒さ、移動疲れ、完全ソロ初見など相まって有名アトラクションには乗らなかった。ラプンツェルと写真を撮り、パレードを見、スティッチが話芸でめちゃくちゃ場を回しているところを見た。あまりこういうテーマパークは好きではないが、なんやかんや行ってよかったかなとは思う。

 ディズニー退園後iroziro、fukrou、alp、sulfideの飲み会に混じって喋った。iroziroさんはリアルでも上手かった。宿を決めていなかったalpさんと僕はsulfideさんのお世話になった。僕に至っては二泊目もお世話になった。本当にありがとうございます。

 当日はalpさんと二人で行動した。ナランハでVP、サンバ、HGGなどいくつかペンを買い、会場近くのカフェでJEBfesの時間まで暇を潰した。同世代ということもありいろいろ話せたと思う。

 六年ぶりのJEBfesは普通に楽しかった。モナチョさんの鬼気迫るZCC→FLリバに思わず嘆息し、RPDさんに2pensを教えてもらい、Airiさん始め同世代と数年ぶりに会話した。同じDr.gripスピナーであるaonekoさんとも数年ぶりに会い、ついでなのでJapEnで共演しておいた。Sfineさん等若手にペンを幾つか貰ったので筆記で使っている。

 こうしてさまざまなな人と会ってみたが、身内でないスピナーと話すときの距離感を測りかねたな、とやや反省している。自分が興味のあるトピックに、相手も同じように興味を抱いているわけでは必ずしもない、というコミュニケーションの原則から自分がいかに逸脱しているかということを再認識するよい機会であった。

 


出演・出場

PSO Unmod部門 優勝(僕の動画。概要欄審査結果)

JapEn 18th

大晦日コラボレーション2022』(剛腕さん作)

HERMITAGE』にシレッと落選。

 


編集

拾い『Sweet shareroom

 


その他

・諸々の撮影が終わった12月の前半にギターを買いずっと弾いている。

・PCを買うお金を貯めていたが、2023年に実家の諸々の整理をするため、結局買えなさそう。

・これまでのJapEnを回顧する記事が、あまりにも膨大になりすぎたため書きかけのまま止まっている。ひとまずJapEn18thの感想を先に書いた方がよいだろう。

マッチングアプリを始めたが、箸にも棒にもかからない。やたらグイグイくる人がおり会ってみたが、よくあるネズミ講の勧誘だったので即ブロックした。グイグイくる相手の勢いに乗っかってはダメだなと思った。

 


 2023年はプレイヤーとしてだけでなく、界隈を活発化させるために色んなことに手を出すだろうと思う。実生活との折り合いがあるため、どこまでのことができるかは正直わからない。一番やりたいのは九州オフである。

 


 最後に宣伝。『愛のあら熱』CV制作します。動画募集中です。よろしくお願いします。

jeb.penmawashi.com

身の振り方を考える(PSO振り返り)

 本来僕は海外の大会には興味を持たない、JEBスピナーにありがちな態度をとっていたので、PSOが2018年からやっていたことも覚えていなかったし、今年も対岸の火事だと思っていた。しかしよくよく公式のツイートを見てみれば“Unmod”なる文字列がある。その文字列が目に入った瞬間、遠くの祭囃子が一気に僕の領域まで急接近してきた。

 年末はJEBもイベントが多くなるのでスケジュール上、それでも参加には及び腰だったわけだが、下のツイートがついには決め手となった。

 端的に言ってこの予想は正しい。未改造ペンでできて改造ペンでできない技というのはなく、突き詰めてみればスタイルとして両者を分かつのは、それぞれで見栄えのよい技が違うことだけだと言える。ゆえにその差異をさえ気にかければある一定以上のクオリティのFSを作ることは可能であって、実際その例としてEverchixさん(上)、Itezaさん(下)を挙げられるだろう。

youtu.be

youtu.be

 ツイート主のTaliskerさんの指摘通り、彼らが未改造回しの研究を本格的にやり始めたら、ものの数ヶ月で僕を越えてゆくものだと想像に難くない。

 突如としてobjeというUnmodスピナーの立場が揺らぐ。僕は無駄に十年もDr.gripを回し続けているからだ。果たして僕の座っている椅子は、十年という歳月の長さとスタイルの特殊性に頼りきった、伝統主義的で権威主義的な、脆い椅子ではなかろうか。

 ペン回しの発展においてスピナーの立場など瑣末事だ。しかし、未改造ペンで素晴らしいFSを生むなら、ついでに僕を正面から潰して欲しい。その思いから、ある種ヒール役を買って出るつもりで参加した次第である。

 

 結果は僕の優勝に終わり、aonekoさんの準優勝に終わった。予選から既に僕とaonekoさんとの優勝争いであることがほぼ決定づけられた印象であった。僕の意気込みには単純なミスがあった。それはUnmod部門が今年から新設された部門であるゆえに、未改造回し専門ではないスピナーたちが短い準備期間のなかで挑まなければならなかったという事だ。しかし拍子抜けな結果だったかといえば決してそうではない。KoViさんの意気込み溢れる奮闘を見ることができたからだ。

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 彼のFSにはEaseさん的な文脈が随所にみられ、加えて自分のアドバンテージも組み込もうと苦心した形跡がある。この短期間でかなり研究したことが容易に窺える。僕の面目が潰れることはなかったが、真っ向から挑まれていると唯一感じたFSであった。

 それ以外でも自らのポテンシャルで勝負に出たと思われる良いFSもあった。難易度重視のtetoraさんやGravy、miくんやEnceさん、coffeluckyやPadraceなどのFSは上述の点で良かった。またDrakeSは海外ではほぼ唯一未改造ペン回しを継続している人であるため、彼にはこれからも頑張ってほしい。

 

 では僕がヒールの役を全うできたか。達成率でいえば65%ほどだろうと、執筆時点では思っている。簡素で、未改造ペンでも改造ペンでも比較的見映えの保証されたパス+ウィンドミル系統の技に終始したために、Easeさんやaonekoさんのような見応えにはいまひとつ欠けていたのではないか。未改造ペンを回し続けてきた者としてあるべき洗練度に達している自信はあるが、密度や構成の面白みという点では不満が残る結果となった。そして今の自分の発揮できるポテンシャルとして、実はこれがほぼ限界に近いことにもまた、歯痒さを感じてやまない。

youtu.be

 Unmod以外は見ていない動画も多いが、StandupのPadrace、Haroさん、Akky、XpXhのRPD、Criswea!!、AestheticsのAiMoさん、Nanafushiさんが印象に残った。特にXpXhの上位二名の動画を見ていて、やはり今後未知なる表現の開拓は、改造された、双頭の、長く回しやすいペンによってされるものであると再確認した。そしてその点で、キャリアの途中でUnmodに本格的に参入する人はこれからもいないだろう。時間は有限だ。だとすれば、ペンスピナーたちの“余暇”として細々と生きつつ、Easeさんやaonekoさん、僕などと同じ轍を踏んでくれる次世代を見つけることが、Unmodスタイルが食いつなぐ唯一の道ではないか。僕は方々で「Dr.gripスタイルの延命をするためにいまもDr.gripを回している」と言っているが、今後の身の振り方としてはおおむね適切なものであろう。そしてそれはおそらく単なる現状維持で達成できるものではない。そのスタイルをずっと続けている者なしにして、スタイルが生き残る術はない。オールドスクールVPスタイルの状況を見れば、そのことは明白だ。

 Taliskerさんの予測の答え合わせには、かなりの期間を要するものだろう。しかしPSOのUnmod部門が新設されたことで、その期間はかなり縮んでくれたと思う。スピナーたちが“余暇”に専念する機会が生まれたことは、この上ない幸いだ。だから僕はこれからも“余暇”の番人として、伝統主義者的に、回せるだけ回してゆくつもりだ。もし次回もUnmod部門があるなら、そして僕が幸運なことに二年後もペン回し活動を続けられているならば、そのときはぜひ僕と“余暇”を楽しんでいただき、時には僕を越えていただきたい。

 

 素晴らしい大会をありがとうございました。

 

2022/12/15 1:10 KoViさんの動画を追加

Xoay感想 〜「現実世界×ペン回し」CVの楽しみについて〜

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 机上の同質的な撮影環境を離れ、外に出れば変わりない俺たちの生活がある。ペン回しには回す手があり、それを支える腕があって、腕の持ち主は当然服を着ている。彼は立って座って歩いて、あるいはスクーターに乗って道を、自分よりも遥かにデカい建築物の列の間を縫ってどこかへ走ってゆく。それらを取り囲んで空気があり、明暗があり、雨と遠雷がある。

 そういう俺たちの生の時間を前にペン回しはとても小さい。たぶん太陽と地球くらいの差がある。

 ペン回しに現実世界を組み込むのは、ペン回しという抽象的運動体を、厖大で遡行不可能な生の時間と対峙させることだと思う。または、生の時間をペン回しと対峙させることでもあるだろう。

 “Xoay”の風景カットは、どこかへ向かってゆくような、動きのあるカットが多く、ふとしたところで薄暗くしんとした路地のカットが挿入される。

 ペン回しのカットは、序盤は背景に動きのある、風景カットとリンクしたものが続くが、中盤からは風景カットの動きと対比するように、静かな背景でのペン回しが多くなる。ペン回しのカットのどれもが、明暗やアングル、背景などにそれぞれ違う趣きがあり、風景カットも相俟って、ペン回しがメインでありながら、生の時間のなかに溶け込んでいる感じがする。

 ついでにみちのく旋転会の“REAL”やLotus氏の“OMACHI-KUDASAI”を見返してみたけれど、“Xoay”はこの二作品とは微妙に別なアプローチになっており見応えがある。

 大したことは書かなかったけれど、現実世界×ペン回しの楽しみを俺なりに言語化しておいた。多分このコンセプトがとれるアプローチもそういうものなんじゃないだろうか。

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2022/09/05 21:41 副題を追加アンド修正

Dr.gripなんて回すな!

 ペンスピナーのブログを時折読み返している。当時の彼らが抱いていたペン回し観とか、オフ会の記録やCV制作とかの裏話などが(もちろん消えたものも多いが)残されており、今読んでみるとなかなか面白い。ペンスピブログイベントであるアドベントカレンダーやPSメモランダムの真価は、数年経ったあとに発揮されるものなのかもしれない。

 Dr.gripスピナーであるTheCCAW氏、Ease氏の両二名は、ブログにてDr.gripを回すことのメリットやデメリットについて考察を残している(TheCCAW氏はデメリットのみ)。記事中にある二人の当時のDr.gripスピナー歴にいつのまにか僕も到達してしまっていたので、今回はこの話題について先達二人の記事を踏まえ、ここに書き記そうと思う。下記に両氏の記事のリンクを置いておく。

Dr.GRIPを回さないほうがいい5つの理由 - 備忘

だるいーず | Dr.GRIPを回すメリットとデメリット

 

目次

 

Dr.gripを回すことのメリット

 

1.Dr.gripスピナーという個性・希少性を得られる

 ふつうそれぞれのスピナーの違いというのは、環境やアングル、指の形あるいは名前そのものの影響力等等、そういったもので見分けられるけれども、Dr.gripスピナーの場合、「回しているペンが短く、また未改造である」という截然としたもう一つの違いを持てる。ペンの短さが技や軌道の見え方を、改造ペンスピナーとは一線を画したものにするので、この明白な違いはCVにおいても差し色的な役割を持ちやすい

 加えて同時代的なスタイル被りがそれほど起こらないため、なお個性・希少性を獲得しやすい*1

 

2.使い込みプレイヤーにとってこれほどうってつけのペンはない

 無論改造ペンでも「使い込み」はあるけれども、Dr.gripは一部を除き、使い込むにつれ塗装が落ちて回しやすくなる上に、ツヤのある綺麗な、見栄えの良い白ボディに変化してゆく。グリップも使い込むことで削れ、濁り、独特の貫禄が出てくるため、変化を楽しめるのもDr.gripを回し続けることの良さだ。

 

3.金銭的浪費が少ない

 Ease氏の書いていたことと被るが、Dr.grip回しは経済的コスパがよい。店頭で買えないのがネックだが、スピループスで送料込みでも800円。一本二本程度の改造ペンだけでずっと食ってゆくつもりなら話は別だが、現実にスピナーがペンにかけている費用の総額で見れば段違いに安くなる。

 余談だが、この間Kay氏がDr.gripをそのフォルムを保ったまま改造する動画【コメペン改造】Dr.GripをDr.GripでDr.Gripにします【ペン回し改造ペン】 - YouTubeを上げており、「スゲー!」と中学生ばりの感動を覚えた僕は即、近くのスーパーで材料を買いに出かけたわけだが、支払い時に完全に我に返ってしまった。改造されず、新品のままのペンたちは今も小物入れに眠っている。

 

 さて、僕が考えついたメリットはそんなところであった。次にデメリットについて書く。

Dr.gripを回すことのデメリット

 

1.映えない

 ペン回しFSの評価において、もっとも根本的な要素といえば、その一つとして「手とペンの主張のバランス」が挙げられる。背景と同系色のペンを回すのは「映えない」わけだが、それというのもペンの軌道が背景と同化し見えづらくなることで、手の動きが殊更に強調されてしまうからなのだ。hash氏のペン回しコーチング企画第二回配信でも、一番初めにペンと背景の配色についての指摘がなされている。実際、ペンの両端部分の色が背景と同化しており、本来つくれる大きさの半分くらいの円軌道になっている。円軌道が小さいので、そのぶん手の動きが意図せず強調されてしまっている(crossさんへ 勝手に評価しちゃってすみません)。

youtu.be

 この円軌道の小ささ、どこか既視感がある。……そう、これはDr.grip回しがつくる円軌道の大きさに近いのだ。

*2youtu.be

 つまり、Dr.gripの回しというのは必然的に、“円軌道が小さいゆえに手が殊更に強調されがち=映えない”回しであるわけだ。

 FSの評価におけるもっとも根本的な要素において、Dr.grip回しにはハンデがある。Dr.gripスピナーは、改造ペン使いであれば背景とペンの色合いにさえ気を遣えば容易にクリアできるような、通過点でしかない要素と一生涯付き合う羽目になる。

 

2.技術的困難性、スタイル確立への気の遠くなるような道のり

 もはや言うまでもないが、Dr.gripのそのフォルム、その短さは技術習得において強力な軛となっている。 そもそもが回しにくいので、習熟するにまず時間がかかる。いざ習熟したとて、前述の見映えの悪さが表現の幅を大いに狭めているため、今度は他Dr.gripスピナーとの差別化に苦労する。

 黎明期からすでに独自のスタイルが出来上がっていたaysh氏、Dr.gripの欠点をうまくかわし、転用しながら、表現の「型」を作り上げたのがEase氏で、その「型」とはまったく別の世界観で突き進んだのがaoneko氏やTheCCAW氏である。ほかにもCrasher氏やOver氏、Garu氏等等。……これだけの表現がDr.grip回しから生まれているのには驚くばかりだが、果たして僕以降のDr.gripスピナーに残された道があるのか、十年目である今の僕にすら全くわからない。

 

3.周りに理解されにくい

 一般スピナーのDr.grip回しへの評価には八割方「ドクグリ回しわかんないけど」という枕詞がつく*3。これはおそらく大技や両手、インフィニスト、ときにはコリアンなどほかのスタイルでもあることだとは思うが、それらに比べDr.grip回しは、他スピナーの価値観に侵襲できるくらいの確固たる個性を持つことがはるかに難しいように思える。

 一般スピナーが持ち合わせている尺度で評価できる範囲から、Dr.grip回しがあまりにもはみ出しすぎているのか、あるいは1の「映えなさ」が評価するうえであまりにも大きな壁になっているのか。どちらにせよ一般スピナーからの数多の「わからない」をぶつけられながらの、孤独な戦いを強いられる。

 

4.改造ペンとの関係が崩れる

 Ease氏、TheCCAW氏両名はデメリットとしてまず「改造ペンに対する意識の希薄化」を挙げている*4。改造をしないのでその知識や楽しみを抱くことも共有することもなくなり、結果としてペン回しの楽しみの一つを失った状態になる、というわけだ。僕は比較的改造ペンを回す方ではある(多分)が、それでも改造はここ数年していないし、動画も滅多に出さないため、総じてDr.gripスピナーと改造ペンとの距離はかなり遠いといえる。

 じゃあもうちょい距離縮めれば良いんじゃないの、と思われるかもしれないが、これについては両二名の記事で既に回答とすべきものが出ている。

ドクグラーになることであの人はDr.GRIPしか回さないというイメージ、先入観が付きます。
改造ペンを回しても他人から見て違和感が生じてしまいます。また周囲の期待がある場合は、他のペンに鞍替えすることが困難となります。
色々なペンでFSを撮影して楽しむ機会が格段に減ることになるでしょう。

 

「Dr.GRIPを回し続ける」と思い定めたとしても,生半可な決意では改造ペンの誘惑には勝てないというのが私の見解です。純粋な"回しやすさ"という大きなメリットを捨ててまでDr.GRIPを回し続ける必要性はないと私は思います。

 

 こうして両者の回答を並べてみると、元からDr.gripしか回してなかったEase氏と、途中からDr.gripスピナーになったTheCCAW氏とのペンスピナー的生い立ちの違いが浮き出てきて面白い。ちなみにaoneko氏は前者で、僕は後者だ。

 僕のそういった経歴からいえば、Dr.gripスピナーたるには、それすなわち「改造ペン縛り」をすることに他ならない*5。改造ペンはDr.gripに比べあまりにも見映えが良すぎ、回しやすすぎる。改造ペンをわりかし回す僕がそれを滅多に動画に残さないのは、はっきりいって改造ペンを回した方がよっぽど「映える」と自分で理解しており、「ドクグリよりよっぽど良いじゃん」と評されることを、恐れているからだ。完全に拗らせである。

 改造ペンに対しては無関心になるか、拗らせるかのどちらかしかなくなるのだ。どちらにせよ一般スピナーとはその関係性において全く異なっている。

 

 こんなところだろう。ほかにも細かい要素は挙げられると思うが、大体のメリット・デメリット(特に後者)は、突き詰めてゆくと上に挙げたもののうちのどれかに収まると思う。

 かれこれ僕もDr.gripを回し始めて十年目である。人は多少不満を持ちつつもそれとうまく付き合ってゆくもので、デメリットと長く付き合えば付き合うほどそれはその人のうちで発酵され、単なる短所・欠点に留まらなくなる。Ease、TheCCAW両氏の記事のデメリットの記述にも、長年それと共に生きてきたもの特有の、深みのようなものが感じられる。

ある種自虐的に,加えて潜在的ドクグラーの芽を摘むという建設的な意味合いで「Dr.GRIPを回さないほうがいい5つの理由」を記します。

 TheCCAW氏は冒頭でそう宣言し、「俺みたいにはなるな!」という教訓的な意味合いでデメリットを五つ記している。しかしこの「ある種自虐的に」という言葉の含みが、暗に、Dr.grip回しの世界を魅力的に感じさせ、その世界に読者を招待しているようも思えてくる。実際、「脈絡はない」としつつも、記事は彼自身のDr.grip回しの動画で締めくくられている。

 往々にして、不満にこそその人の感性、経験が色濃く反映され、面白味を持つものなのだ。

 TheCCAW氏がそこまで意図していたかはわからないが、ともあれ僕も次の一言をもって記事を締めくくろうと思う。

 

「Dr.gripなんて回すな!」

 

2022/08/26 1:26 追記。自慢したいので今の俺のDr.gripの写真を貼っておく。

2022/08/26 2:53 デメリット1の本文に追記。

2022/08/26 3:13 誤字修正

2022/11/08 15:29 Kay氏の動画リンクを追加

f:id:waka_violet:20220826012741j:image

*1:若手にDr.grip使いが多いため、今後どうなるかわからないところではある

*2:あえて初心者のときの動画を用いた。今もさして変わらないかもしれないが、今はまだマシにこの欠点と付き合えていると思いたい

*3:それでも評価に紙幅を割いてくれる方々には感謝しかない

*4:この点はaoneko氏もTheCCAW氏の記事のコメント欄で「同じ」だと表明している

*5:改造ペンでCV出演歴のあるCrasher氏やGaru氏等、例外はある

IN THE DUSK感想

youtu.be

 音楽のライブといえば、個人的にはまずあの耳をつん裂くような、けたたましい音の鳴る(故に苦手な)ライブハウスをイメージするが、一度だけ喫茶店のライブに行ったことがある。ジャズといえば喫茶店、という、一種ありきたりな想像をなぞるような体験ではあったが、ウッドベースの音色をその身に響かせている、やや物々しい石膏の壁を、ミラーボールの反射した色とりどりの円い光がつたってゆく光景を妙に覚えている。

 日が暮れても明るい都会の夜景をあえてピンボケの状態で撮ると、水玉様の暖かい光が真っ暗な中に浮かび上がる。『イン・ザ・ダスク』のサムネイルがまさにそれで、これを界隈の用語で「玉ボケ(!)」と呼ぶらしいが、本編でもあらゆるところで「玉ボケ」を想起させるエフェクトが使われている。

 しかし個人的には、あのミラーボールの反射光が連想された。kudoさんには隣でスマホの画面を見せてくれたfukrouさん*1だが、僕をかの喫茶店のジャズライブに連れて行ってくれもしたのだ(?)。

 

 

出演者の感想(敬称略)

 

おれ

成功率を上げるために手癖技で組んだため、割と簡素な構成。現状、そこそこの完成度で撮るためにはここまで難易度を下げないといけない、ということを自覚した、ようやくスタートラインに立てたという感じのFSである。

ただ手癖に頼りすぎたため、ところどころ見栄えの悪い技が入っている。自分の中では一番好きなFSだが惜しい。

ツイッターでも言ったが、実はこれ、手持ち撮影である。しっかり手ブレ補正されてあり、しかも完璧すぎるので申し訳ないが面白かった。

 

Nanafushi

発想や技術はよいが、全体的に小綺麗にまとめられ過ぎているという印象を受ける。ただ歴はまだ浅いから、どんどん経験を積んでほしい。

 

kudo

この人のシャドウが上手い。〆の前にしれっと入るジャパモの瞬間風速にやられてしまった。個人的にはもっとトリッキーなことをしてもよいと思う。

 

Padrace

全体的に腕で回し気味なのと、手の主張がやや大きいため惜しい。〆にかけてのクライマックスはとてもよいだけにとても惜しいFS

 

マワシズキ

指を折りたたむ技と開く技をバランスよく使い、234をおもっきし開いたダイナミックな技を入れて〆へとゆく構成は素晴らしいが、肝心な234を開いたときの指の形がホラー。照明の当たり方といい、色合いといい、ややホラーな動画。

 

kiwi

粘性のある技運び。ゴム製のサンバを回している可能性がある。回しが楽曲のパートにうまくマッチしており、非常に魅力的。

 

Airi

円軌道の見せ方や崩し方など相変わらず上手い。さりげないエフェクトも相まって〆がキマっている。45軸の技がもう少し欲しいと感じた。

 

このkiwi→Airiのパートが個人的には一番好きな場面だ。

 

Nk

ペンの端を持つパート、中心で回すパートの配分がうまく、またそれぞれで緩急もしっかりついている。マジで上手い。特に「急」のパートの回転量が凄まじい。

余談だがこの人、実は僕と同じペンスピLINEグループの出身らしい。知らなかったの俺だけ?

 

TUv4

WC18の頃と比べ、ペンの見せ方が見違えるほど上手くなっている。このスタイルで見栄えの良い回しを維持しつつ、さらに浮遊感まであるので、個性が強い。

 

AiMo

技のレパートリーが数年前とは比べ物にならないほど多く、また環境も良いので安定して上手い。中盤の23フェイソニ→FLリバの指の形がよい。音合わせもしっかりハマっている。

 

eban

あまりにも均整のとれすぎな手つきは言わずもがな、中盤の13チャージなど、技の精巧さも健在。コマ落ちのためなのか、ペンの残像が惜しいと思った。

 

mir

えええ!! となった。共演できて嬉しい。流暢な技運びのなかに気持ちよくスリップトソニックとラダーが入る、mirさんらしいFS

 

iroziro

シャドウの流れを23-12デビルズソニックFLリバでぶった切り、ソニひねをちょっとばかしいれて23でぶん回す、という怒涛の前半と、ラストの12sp⇒そのまま〆ると思いきや、23で派手に一回転入れてから〆、という裏切り技にこの人の底の知れなさがある。上手い。

 

 

 色白さんの〆を呼水に、うっすらと僕、ななふし、クドウ、tuv4kiwimirが三連符に合わせ代わる代わる〆をキメて、本編が終わる。なんとなくガンダムZZのクライマックスを思い出す演出であった。

 

 CVに実写映像を使う発想JapEn 15thでもあったが、よりスピナーの心情にフォーカスしていたJapEn15thに対し、『IN THE DUSK』は風景そのものに焦点を当てている。*2

 初編集ながら、ペン回しCVとしての基本的な演出技法をしっかり抑えた上で、実写映像×CVというコンセプトを実現するに至っており、fukrouさんの努力の凄さを実感する。アドバイザーがどれだけいても、自分ならあの細かくて面倒で非常に多い作業量に、途中で音を上げてしまうだろう。

 編集の基礎はだいぶ身についただろうから、これからもCVを作っていって欲しいところだが、毎回高クオリティでなくとも、『愉快な仲間たち』シリーズとか、親指シリーズとかのノリでいい。むしろそのノリのCVが見たい、と思った次第。

 

お疲れ様でした。

 

2022年7月20日17:14 脚注を追加

2022年7月20日17:18 脚注を若干修正

*1:IN THE DUSK 感想 - 新 クドウのアトリエ

*2:ちなみに風景×FSは確かvampireさんがやり始めたと記憶している。

SMR Splash 感想

 納豆さんのCVに出た。

youtu.be

 前作や『イカ即』シリーズに比べ、シーン切り替えやコテ出しのエフェクトなど、画面全体を使ったダイナミックな演出が随所に見られ、CVそのもののテーマ「青」、「水しぶき」が前面に出ている。以前の作品に引き続きペン回しを主役に添える手堅い演出も健在であり、即席にしてはなかなかのクオリティである。

 横幅がやや狭めなのと、Nogutaさんに切り替わるときのエフェクトの動きにカクつきがあるのが少し気になった。後者は意図されたものかもしれない。

 CV制作をやっている人から見れば、また違った感想が出てくるだろう。

 

出演者の感想を書いていく、敬称略す。

 

Mania

技のチョイスにCeNtiさん味を感じた。序盤のウィンドミル(?)からサッと4ガンマンまでのコンボのような、アッサリとした流れが〆の前段階にもあると全体的なバランスがよくなるように思える。尺的に仕方ない。

 

Noguta

ペンに比べ、手の主張がやや強めだが、このタイプのペンの残像は、これはこれで一つのスタイルとしてみてよいかもしれない。テンポが良いため見ていて不快感がない。

 

Nomad

〆前に一瞬だけ回転が逆になる場面があり、惜しい。見せ場になりうる切り返しだったが、すぐに回転方向が戻ったため、見せ場になり損ねている。その重さゆえか、全体的にペンを支えきれていない感があり、2軸fxxk⇒ノーマルの際の手の形や腕の動きなども惜しい。

 

Airi

上手い。たぶん適当に撮ったのだろうけど、スタイルがほぼ完成されているので、ペンの基本的な動かし方や緩急など、一つ一つ次元が違っている。若い人が双頭ペンで緩急のないFSをしているのをよく見かけるが、みな彼を見習ってほしい。

 

a_L_P

中盤の1軸がほどよく入ってくるコンボ(12-25パスリバ〜切り返しまでの流れ)が良い。昔は伏せ技の時の親指の主張があまり好きでなかったが、それも改善されている。

パスやソニひねが多く、常に等速でいまいち見せ場がわからない印象があるが、たまたまこの動画がそうなだけで、最近の他の動画ではその欠点も補完されている。

 

Nascaおてもと

コリアンにわかながら、全体的にshahellっぽい印象を受けた。私見、技の洗練というところではかなり卓越しているが、これからジャンル横断的にいろんなスタイルを吸収して、構成力を身につけていってほしいと思う。

 

Raijing

この人もペンの重さに負けている印象がある。中盤の伏せ25でペンを持ち、34軸の入れ替えをする技はたしかJapEn11thのふかわさんもやっていたが、あまり良い技だとは言えない。

 

Meves

歴が長いだけあって技がかなり洗練されている。指遣いや腕の動きなど、「VPっぽい」という形容には収まらない独特さがある。構成と〆のつっかかりが気になった。

 

Sfine

画質といい照明の当たり方といい、タイムスリップをしている人の可能性がある。ネオバク流し以降のペンがバウンドしているような動きの流れが面白い。

 

MELON

この人からもCeNtiさん味を感じた。個人的にはペンと手との存在感のバランスが少し変だと思った。4G回線スマホで視聴しているせいもあるかもしれないが、ペンの残像が出にくいために回転数不足な印象を受ける。逆回転中心の構成で、手を立体的に見せる技が多いので、どこかで切り返してもいいと思う。

 

おれ

「LAST Player」から急に僕のガタガタな3ガンマンがどアップで映ったので笑ってしまった。今見返すといろいろ粗が見えてくる。編集が悪いわけでなく、いつも脇目でしかFSの確認をしない僕が悪い。オーダーの難易度を考慮せずなんとなくで組んだためにFSの成功率が落ち、伴って完成度も落ち、結局「まあ〆は上手くいったかな」くらいで妥協してしまう自分の悪い癖が出てしまった。

そういえば毒栗の配色について。以前パーツをいただいて緑白配色にしていたが、折れてしまったため、家にあった青パーツでこのドクグラーあるある配色にしている。どなたか、いつかの機会に、ご自宅に余りもののクリア緑のパーツがあれば、それを1つ(よければ2つ)恵んでいただきたい。

 

 

 にしても、かなり久々にCVに出た。(身内CVに誘われてこっそり出ることはあったが)本格的な出演はJapEn13th以来になる。未視聴だったJapEn2020,17thを観、同世代の動画をいろいろ見て、いざ自分の2018年までの動画を見返してみたが、まあなんと自分のレベルの低さに思わず嘆息してしまった。この辺りいろいろ書いてゆきたい。

 JapEn17th(できれば2020も)の感想もまた、筆を改めて書こうと思う。